コールセンターの離職防止マネジメント術

コールセンター白書2019」によれば、コールセンターのオペレーターは1年以内に約3割が離職しているとのことです。オペレーターが受ける電話は、電話が繋がった瞬間に暴言を吐かれたりすることもあります。精神的に負担が掛かる業務であるにもかかわらず、評価されにくくモチベーションが維持できない等が背景にあるようです。

従来は、大量採用・短期契約のマネジメントが通用していましたが、労働者不足の現代では、もはや通用しなくなってきました。

そのため、コールセンターを運営する上で、離職を防ぐことが非常に重要になってきています。本記事では、コールセンターの離職防止のためのマネジメント術を紹介します。

見直したいコールセンターの離職率

コールセンターの離職率

前掲「コールセンター白書2019」の統計結果によると、コールセンターのオペレーターは1年以内に約30%が離職しているとのことですが、全職種の離職率が約15%ということを考えると、約2倍と非常に多い状況です。

総合人材サービスランスタッドの調査結果では、コールセンターの離職理由として、クレーム対応にストレスを感じる、過大な業務負荷、長時間労働の割に低賃金、キャリアとしても専門的な知識が身につかないなどが挙げられています。単調でやりがいを感じずに、将来に不安を感じるオペレーターが離職しているのです。

従業員が離職した際の損失額

CENTRIC社の調査によると、コールセンターの新入社員が早期離職をすることで、概ね230万円の損失が発生しているとのことです。損失額の内訳は下記の通りですが、離職率が高いと経営を圧迫してしまいます。

採用コスト 約30万円
教育・研修コスト 約110万円
有給休暇の消費 約30万円
業務の引継ぎコスト 約30万円
補充採用コスト 約30万円
合計 約230万円

(参考:ECのミカタ「コールセンターの人材コストを200万以上削減 音声感情解析システム『Deep SEA』」)

 

コールセンター離職防止のマネジメント事例

The Mode Gakuen Cocoon Tower is visible behind other buildings in the Shinjuku ward of Tokyo, Japan, October 17, 2017. (Photo by Smith Collection/Gado/Getty Images)

従来は、大量採用・短期契約のマネジメントが通用していましたが、労働者不足が問題視されている現代では、従来通りのマネジメントが通用しなくなってきました。以下の企業では、離職防止のマネジメントを適切に行うことで成功しています。

アメリカン・エキスプレス

クレジットカードで高いブランド力を誇るアメリカン・エキスプレス(日本法人)は、従業員数480名、クレジットカードで高いブランド力を誇っています。アメリカン・エキスプレスでは、既存社員が知人を紹介する「リファラル採用」を導入しています。

リファラル採用を成立させる秘訣は、既存社員に紹介したいと思わせる、社員のロイヤルティを醸成することが欠かせません。アメリカン・エキスプレスでは、成長を実感できる評価制度や、キャリアップの仕組みを構築しており、GPTWジャパンが調査した『2019年版日本における「働きがいのある会社」ランキング』では4位に入賞。リファラル採用は優秀な人材を採用するだけではなく、社員定着化にも貢献しています。

オリックス生命保険

2016年にオリックス生命は、保険会社のコールセンターが多数進出している長崎県に支社を開設しました。開設に際して即戦力になる経験者の応募を見込んでいたが、後発のコールセンターであるために、経験者の応募が少ないという課題を抱えていましたが、未経験者(新入社員)を採用して、働きやすい環境を整えることで事業規模の拡大に成功しました。

新入社員の早期離職を防止するために、労働環境を十分に説明してミスマッチの防止、助け合う風土作りなどに取り組んで、1ヵ月内の離職率ゼロを実現しました(半年以内の離職率も8%に抑えている)。

さらに、給付金付きのリフレッシュ休暇の導入や、語学・資格取得・フィットネスなどのメニューから年間6万円分を自由に選択利用できるカフェテリアプランを導入することで定着率を向上させました。他のセンターでも同様の施策や工夫を施して、離職予防に取り組んでいるとのことです。

(参考:長崎新聞『「働きやすさ」で社員定着 オリックス生命 新拠点 快適空間、福利厚生充実』)

東京海上日動コミュニケーションズ

東京多摩市にある東京海上日動コミュニケーションズのコールセンターには、約360名の契約社員が在籍しています。契約社員として活躍しているのが近隣在住の主婦の方です。同センターでは、リーマンショック直後にコスト削減を徹底した結果、離職率が上昇。また、採用難の時代を迎えて、人材の定着に注力するようになりました。

各従業員が満足して働けるように、採用時時給の引き上げ、研修期間の見直しなどを実施、早期離職率を半減することに成功しました。また、電話対応コンテストを実施してスキルや能力を適切に評価することにより、働きやすい職場環境と従業員の離職防止に成功しています。同センターでは、従業員が定着したことによって、人材採用コストが削減できたとも述べています。

(参考:東京海上日動コミュニケーションズ「お客様から選ばれる応対品質を目指して。東京海上グループ「電話応対コンクール」の取り組み」)

(参考:https://callcenter-japan.com/magazine/3838.html)

SBI証券

埼玉県熊谷市にあるSBI証券のコールセンターは、主に派遣社員を採用しています。業務拡大が続くため、毎月平均10名ほどの派遣社員を採用しているのです。一般的に派遣社員には交通費が支給されませんが、同社では2018年度から交通費全額支給を開始。これにより、都内や近県まで採用範囲が拡大できました。

さらに、採用時時給の引き上げやベビーシッター助成金制度の導入で採用強化を図っています。さまざまな福利厚生を導入している同社ですが、その中でも注目を集めているのが「インセンティブ・ポイント」です。インセンティブ・ポイントとは、月間皆勤賞や部長賞でポイントを集めていき、ポイントで好きなアイテムと交換できる制度です。このような評価制度を導入することで、離職防止に成功しています。

(参考:SBI証券「モチベーション向上と意識改革に効果を発揮!」)

コールセンターの離職を防止するマネジメント術

離職率防止に取り組む各企業の取り組みをご紹介しましたが、前掲「コールセンター白書2019」の調査結果を見ると、各企業では「実務に対する評価とフィードバックを実施(34.5%)」「時給改訂を実施(31.4%)」「表彰制度の充実(30%)」「研修等の人材教育プログラムを実施(30%)」等の取り組みがされています。それぞれの取り組み方を確認しておきましょう。

業務に対する評価とフィードバック

社員のモチベーションを高めるためには、定期的なフィードバック面談が重要です。人事評価の運用は、「社員自身が目標を設定して自己評価するサイクルを作ること」、「目標設定やフィードバック面談を実施して、社員のモチベーションを維持すること」の2つの目的があります。

評価面談は、評価期間中の中間・期末の2回程度実施されるのが一般的ですが、それらの評価だけでは十分なコミュニケーションは図れません。Yahoo!のコールセンターで注目されているのが、リアルタイムの目標設定とフィードバックを実施する評価方法です。評価者と部下が1対1で行う「1on1」ミーティングを短いスパンで実施することで、社員の主体性を育むことに成功しています。

(参考:CALLCENTERJAPAN「2018年7月号 <センター探訪>」)

 

時給改訂

 (出典元:エボジョブ)

コールセンターの求人情報「エボジョブ」を運営する株式会社KDDIエボルバの調査結果によると、転職を検討する半数以上のオペレーターが給与への不満を持っています。時給改訂を行うことでも離職を防止できます。

表彰制度の実施

 前掲「コールセンター白書2019」では、各社の離職防止施策の取り組み状況も報告されています。離職予防施策として「実施した」が最も多いのが「表彰制度」です。4,000名以上のメンバーがいる東京海上ホールディングスのコールセンターでは、電話応対コンクールが開催されています。このコンクールは、毎回社内外から200名以上の観客を動員するイベントにまで発展しています。

電話応対コンクールは大手金融機関や保険会社で、「実施しやすい」として人気の施策です。また、皆勤賞や業務効率化大賞など、さまざまな表彰制度を実施するコールセンターほど、マンネリ化を防止できて社員のモチーベーションが維持できると報告されています。

(参考:総合人材サービス会社ランスタッド「第1回離職率の低減」)

研修等の人材教育プログラムの充実

キャリアアップに意欲を持つ人材の離職防止のためには、研修等の人材教育プログラムの充実が欠かせません。実際に、「コールセンター白書2019」の調査報告書でも、離職防止のために人材教育プログラムを充実させたと回答する企業担当者は35.3%もいます。

(おまけ)感情分析 AI の活用による離職防止

AIの発達は目覚ましいものがあり、さまざまな分野で活用されるようになってきました。その中で、感情分析AIは、人間の音声等を分析し心理状態を定量化することができ注目を集めています。

Empath社の感情分析AIでは、音声情報をリアルタイムで認識し「穏やか」「怒り」「喜び」「悲しみ」の4種類の感情に分類できます。

既に活用されている分野の1つとしてコールセンターが挙げられており、感情分析AIが頻繁にオペレーターの声色から「悲しみ」を察知した場合、上長は、何か仕事上の悩みを抱えているのではないか知ることになり、オペレーターに声かけをするなど離職防止対策をいち早く講じることができるとのことです。

(参考:第一生命経済研究所「感情分析AIの衝撃― 人の気持ちを数値化するテクノロジー」)

まとめ

今回は、コールセンターの離職防止マネジメント術を紹介しました。従来は、大量採用・短期契約のマネジメントが通用していましたが、労働者不足が問題視されている現代では、従来通りのマネジメントが通用しなくなってきました。そのため、コールセンターの離職防止がコールセンターを運営する上で非常に重要になってきてます。離職防止の成功事例を紹介してきましたが、まとめると以下のような対策です。

  1. 業務に対する評価とフィードバック
  2. 時給改訂
  3. 表彰制度の実施
  4. 研修等の人材教育プログラムの充実

ぜひ、成功事例のマネジメント術を参考にしてみてください。