不動産業界のDX2.0の日本事例と海外事例まとめ

2018年9月に経済産業省がDXレポートを発表。様々な企業で、デジタルを活用した業務プロセスを変革する「DX1.0」の取り組みが始められました。

新型コロナウイルス(COVID-19)の影響を受けてリモート化する不動産会社は急増しました。しかし、不動産業界のDX化は、業務効率化だけには留まりません。

今後は、ビジネスモデルそのものを変革する「DX2.0」の動きが出てきています。不動産業界の産業構造が急激に変化する中で、生き残るためにはDXのさらなる活用が求められています。

本記事では、最新のDX活用事例および海外の事例について解説します。

 (参考:経済産業省「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会の報告書『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』をとりまとめました」)

 

2030年までの不動産業界の構造的変化とは?

(Photo by Tomohiro Ohsumi/Bloomberg via Getty Images)

2018年9月、野村総合研究所は2030年までの不動産業界の構造的変化と、不動産業界が取り組むべきDXについての提言を行いました。そこでは、不動産業界は供給力不足、人手不足をトリガーとしてデジタルと向き合わざるを得なくなると説いています。以下では、不動産業界がDXに向けて取り組むべきことについて紹介します。

共創こそがDX2.0で成功するカギ

ビジネスモデルそのものを変革する「DX2.0」、つまりテクノロジーを活用した新しいビジネスモデルの創出のためには、「ビジネスモデルを実際に形にできる人材」と、「DX実装までの工程管理ができる人材」が必要です。

2020年5月にMRIが調査したアンケートでは、DX推進上の課題について上位2項目として「ビジネス案を実際に形にする人材不足」と「DXの全体工程を管理する人材不足」が挙げられています。

「ビジネス案を実際に形にする人材」と「DXの全体工程を管理する人材」、つまりデジタル人材の確保については、圧倒的にその数が不足しており、2030年には、170万人が不足するとMRIでは予測しています。

複雑化するIT技術のノウハウや人員リソースを確保する観点から、それらを自社で採用・育成するのは非常に難しい状況です。そのため、テック企業と共創することが重要です。

(参考:野村総合研究所「不動産・住宅業界におけるDX」とは)

実際に大手不動産会社では、テック企業と組んでのDX推進が始まっています。以下、大手不動産会社のDX推進事例を紹介します。

三井不動産

三井不動産は、2018年8月に長期経営方針「VISION2025」を策定して、テクノロジーを活用し、不動産業のイノベーションを目標に掲げています。デジタル技術を用いた新たな顧客満足やビジネスモデルの創造を目指しています。

主に、働き方の多様化が求められていくなかで、KDDIと5Gを活用したオフィスビルのDX化を目指した取り組みが始められています。

さらには、2020年8月に開業した新ホテルブランド「sequence(シークエンス)」には、NECの顔認証システムによるセルフチェックインが採用されており注目を集めています。

参考:三井不動産「三井不動産と KDDI、5G を活用したオフィスビルの DX を目指し、基本合意書を締結」)

(参考:ZDNetJapan「デジタル技術で不動産ビジネスに変革を–三井不動産が注力するデジタル人材育成」)

(参考:TECHABLE 「顔認証を採用したウィズコロナ時代のホテル「sequence」、8月より営業開始!」)

野村不動産

2020年9月から、野村不動産は不動産売買契約手続きの電子化に乗り出すことが発表されました。2020年末までには、契約手続きの電子化、非対面化まで目指すと方向性を示しています。

不動産売買契約は取引額が高額なため、心理的な障壁があり、業界内での導入が進みませんでしたが、野村不動産の動きは大きな注目を集めています。

この不動産売買契約関連の電子化を担うのが、デジタルガレージが提供する不動産契約一元管理サービス「Musubell(ムスベル)」です。Musubellは、電子化可能な必要書類をサービス上で一元管理し、契約までのコストを大幅に削減することができます。

野村不動産は、高額な金額の取引である不動産売買契約を完全非対面化に切り替えるのは難しいと述べていますが、各種書類への署名・捺印の手間は削減すべきであると考えており、今後の不動産売買契約のやり方が大きく変えようとしています。

加えて、弁護士ドットコムが提供する電子契約サービス「クラウドサイン」とAPI連携することで、契約書の署名や押印、郵送などの手間を省き売買契約全体を電子化できます。

(参考:Cnet Jpan「野村不動産×デジタルガレージが突き動かす不動産のDX化-売買契約関連書類の電子化へ-」)

 

海外不動産会社のDX動向

Photographer: Andrew Harrer/Bloomberg via Getty Images

IMD社が調査した「デジタル競争力ランキング」によると、日本のDXは海外と比較すると遅れていることが分かります。先進国であるアメリカや中国では、どのようなDX推進がされているのでしょうか?ここでは、海外不動産会社のDX推進事例を紹介します。

 (参考:三菱総合研究所「IMD「世界競争力年鑑2019」からみる日本の競争力 第1回 IMD「世界競争力年鑑2019」の結果概観」)

Zillow:マッチングプラットフォームを創出

Zillowは、アメリカで大人気の不動産検索サイト「Zillow」の運営会社です。

Zillowが大きな注目を集めたのは「Zestimate」と呼ばれる住宅価格を推定するサービスを提供したときです。売却推定価格が簡単に調べられるとして大きな話題を集めました。そのため、不動産業者を介さなくても安心・安全な取引が行えるマッチングプラットフォームとして注目されたのです。

オンライン上で不動産売却できる機能やバーチャルツアー体験などが用意されており、オンライン上で安全に不動産取引が行える体制が整えられています。

(参考:CISION「Zillow Resumes Buying Homes in 4 More Zillow Offers Markets」)

 CompStak:不動産情報共有化を実現

CompStakは商業用不動産取引価格データの世界有数のブロバイダーです。商業用不動産市場に透明性をもたらす目的で、投資家向けに不動産情報を提供しています。投資家は投資機会を迅速に判断できると共に、投資情報収集と分析にかかる時間を大幅に削減できます。

また、CompStakは積極的にAIを活用しており、将来の不動産価値や収益見込み額の分析に役立てており、多くの投資家から支持を集めている不動産サービスです。

(参考:CISION「Cherre and CompStak Announce Partnership to Integrate Verified Lease Comps and Transaction Analytics into Cherre’s Platform」)

 Tencent:IoTによるスマートビル経営

中国ではIoTによるスマートビル経営への取り組みが積極的に行われています。Tencent社のオフィスでは、受付ロボットや運搬ロボットの運用、顔認証による入退館管理、IoTセンサーによる位置情報把握などスマートビル化が進められています。

Tencentは、2020年1月に中国東部の江蘇省蘇州にTencent Cloud IoT Hubで運営されるスマートビルディングオペレーティングシステムを立ち上げることになり、不動産業界における新たなプラットフォームの地位を狙っています。

(参考:Financial Information Tchnology Focus「海外事例に見る不動産テック・不動産DX」)

(参考:「Tencent, Suzhou join hands on smart building development」)

まとめ

今回は、不動産業界のDX推進について解説しました。不動産業界はDX化がまだ積極的に行われていない業種でしたが、新型コロナウイルスの影響で環境が大きく変わり始めたことからDX化が進められています。ぜひ、本記事を参考にしていただき、DX化を進めてみてください。