メディア業界におけるDXの推進事例

デジタルトランスフォーメーション(DX)はあらゆる企業において実施が進んでおり、メディア業界も例外ではありません。今回は、メディア業界においてDXを推進する際の課題や、最新のDX事例を紹介します。

DXの定義

そもそもDXというのは、最新のデジタル技術を活用して生活の質を高めたり、ビジネスの生産性を改善したり、あるいは新しいビジネスモデルの創出を促す取り組みのことを言います。特に新しいビジネスモデルの創出に関しては注目度が高く、大企業を中心として人材の確保や再教育、オープンイノベーションなどによるベンチャー企業との協業が推進されてきています。

メディア業界が抱えるDX推進における課題

DXは、あらゆる業界において課題とされていますが、中でも、メディア業界はDXが遅れている分野であるとして指摘されています。メディア業界でDXが進まない理由としては、以下の3つの背景が挙げられていると言われています。

専門人材の不足

まずは、専門人材の不足です。コンテンツ制作や媒体運営がメインであるメディア業界では、ITの活用が積極的に行われませんでした。DXの推進は、専門人材やDX推進室を設置して実施することが一般的です。しかしながら、既存メディアではDX人材の確保や、DXを推進するための部署の設置が遅れており、DXに向けた推進力を確保できていないのが現状です。以前よりもICTの活用は簡単になっているとはいえ、組織的にデジタル化を進めていくためには、ある程度専門知識を持った人材と、率先して取り組むことのできる部署が必要です。

ITリテラシー全般の不足

専門人材が不足しているため、ITリテラシー全般がメディア業界に浸透していないという問題があります。そもそもDXとは何か、どのようなメリットが得られ、どうやって進めていけば良いのかがわからないことが、海外企業に比べてDX化が遅れた一因になっています。

デジタルトレンドの潮流の変化

メディア業界において深刻化しているのが、日本国内のメディアサービス全般が、海外のメディアサービスにより、窮地に追いやられているという問題です。これについては何年も囁かれてきましたが、若者のテレビ離れや新聞・ラジオ離れが進み、主要コンテンツは軒並みインターネット発のものへとシフトしつつあります。

YoutubeやNetflixなど、映像コンテンツは軒並みGAFAをはじめとするアメリカ発の企業であり、最近ではtiktokのように、中国発のメディアサービスも登場してきています。また、Linkedinのような求人メディアについても、海外発のサービスの台頭が目立っており、人材メディア業界も例外ではありません。

日本でも、DXによって旧来のメディア業態から脱出し、デジタルトレンドの最先端を生み出せるようなビジネスモデルの確立が急務と言えるでしょう。

メディア業界におけるDXの現状

そんなメディア業界のDXですが、現状ではどれくらいの普及率となっているのでしょうか。デジタルマーケティング企業の株式会社CARTA COMMUNICATIONSは、国内の媒体社関係者を対象に「企業におけるDXに関する実態調査」を実施し、興味深い結果を発表しています。

調査によると、実際にDXに取り組んでいるメディア企業は全体の55%にあたり、今後実施予定の企業も含めると、81%にまでのぼるという結果になっています。ただ一方で問題視されているのが、やはり専門人材の不足です。専門人材や専門部署については47%の企業が「社内に存在しない」と回答しており、半数近い企業が今後DXを推進するために、専門人材の拡充に動く必要があります。

また、DX推進の障壁についても42%の企業が「社員のITリテラシー不足」を課題として掲げており、自社だけでDXを賄うことの難しさが表出した調査結果と言えます。

もう一つ興味深いデータとして見逃せないのが、企業規模に応じて導入状況に違いが現れている点です。従業員数が1,000人以上にのぼるメディア企業では、およそ8割がDX導入を進めていると回答している一方で、1,000人未満の企業についてはDX導入の割合が5割以下にとどまるという結果になっています。

規模の大きな企業ほど、予算と人員が豊富であるため、DX導入も余裕を持って取り組める一方、中小企業ではその余裕がなく、目先の業務遂行で手一杯となっているのは、メディア業界のみならず、あらゆる企業に当てはまる状況であると言えるでしょう。

(参考:CARTA COMMUNICATIONS「CCI、メディア業界のDXに関する実態調査を実施~8割の媒体社がDX推進、課題は人材確保とDXへの理解~」

採用すべきDXソリューションとは

このような状況下では、DXソリューションの導入に優先順位を設ける必要が出てきます。メディア業界が優先して取り組むべきDXとして紹介したいのが、以下の3つです。

プラットフォームの刷新

1つ目のソリューションは、プラットフォームの刷新です。旧来の媒体から徐々にインターネットへとシフトする、あるいは同じクオリティのコンテンツを配信できる体制を整え、新旧プラットフォームを併用できる環境づくりを進めていかなければなりません。

既存ビジネスの継続は重要ですが、競争力を高め、自社の衰退を招かないためにも、新しいメディアへのチャレンジも推進していかなくてはなりません。そのためのリソース確保やビジネスモデル創出において、DXは非常に有効です。

バックオフィス業務の改善

2つ目のソリューションは、バックオフィス業務の改善です。高度にコンピューターが普及した今日では、あらゆるバックオフィス業務は自動、あるいは半自動で実現できるようになりました。勤怠管理や経費精算など、多くの時間を必要とする事務作業も、クラウドサービスなどの導入により、大幅な省人化が可能です。

コア業務に分類されないバックオフィス業務の効率化は、コア業務へリソースを集中させる上でも非常に重要です。優秀な若手人材を積極的にコア業務へ起用し、活躍してもらうことで、他社への流出防止はもちろん、トレンドをうまく捉えた企画の実施にも貢献してもらえます。

業務提携

3つ目のソリューションは、DXに関してノウハウを持つベンチャー企業との業務提携です。優秀なDX人材はレガシー企業よりもベンチャー企業に集まります。自社で人材育成する方法もありますが、スピードを求めるとしたら業務提携が良い手段になります。また、経営戦略上買収を行うことでノウハウ、人材、技術などの取得も可能です。 最大のメリットは時間を買える点です。

日本国内のメディア業界におけるDX推進事例

日本国内のメディア業界は、どのようなDX施策を推進してきたのでしょうか。最後に代表的な事例を3つご紹介します。

フジテレビ

国内のテレビ局としては最大規模を誇るフジテレビは、海外ビジネスの展開に伴って積極的なDXを推進したことが注目を集めました。

同社では日本のテレビ局としては初となる、海外のテレビ局や映像配信プラットフォームの番組バイヤーを対象に、インターネット上で番組の下見から購入までを可能にするシステムの導入を実現しています。

インターネットの普及により、今や各国のテレビ番組は世界中で見ることができるコンテンツへとシフトしています。テレビ局は国内需要を満たすことはもちろん、グローバルマーケットへの参入も視野に入れたコンテンツ制作に取り掛かるようになってきていますが、これは日本も例外ではありません。

日本発のテレビ番組を世界で発信すると共に、世界の番組を日本でも見られるような仕組みづくり、そして世界が興味を持てるようなコンテンツ制作への注力を進めています。

(参考:Screens「なぜ、フジテレビは海外ビジネスをDX化?~日本のテレビ局初「JET」を始動/前編」

リクルート

人材会社大手のリクルートは、これまでさまざまなWebメディアを手がけてきましたが、近年はメディア事業からSaaS事業へのシフトを積極的に進めています。

求人媒体については米国発のサービスである「indeed」を買収するなどして、次世代の人材メディア運営に向けた準備も盤石でありながら、同社が力を入れているのが「エアレジ」などをはじめとするBtoB、BtoC向けのアプリケーションサービスです。既存の媒体を通じたネットワークを活用し、無料でシンプルに使える事業者向けアプリの展開を進めていくことで、新しいマーケットの開拓に力を入れています。

メディア事業をコア業務として手がけてきたリクルートですが、時代に合わせた需要と供給のバランスをうまく理解し、自社が最高のパフォーマンスを発揮できる事業へ柔軟に対応できている点は参考にすべきポイントです。

(参考:Business Insider Japan「リクルート社長が感じた「恐怖」。メディアからSaaS強化への真意 」

エン・ジャパン

同じく人材メディアに強いエン・ジャパンでも、積極的なDX施策が実行されています。同社が力を入れているのが、オフィスの解約によるコスト削減や、バックオフィス業務の効率化といった施策です。

特に注目を集めたのが、オフィスを解約した代わりに導入しているバーチャルオフィスの存在です。対面でのオフィス利用は避け、バーチャル空間にオフィスを設置することで、リモート環境からでも対面でコミュニケーションをしているような感覚が得られるということです。

Zoomなどのビデオ会議だけでは掴みづらい社員の体調や心境の変化を、バーチャルオフィス化によって接点を増やし、掴めるようになることで、リモート下でも働きやすい職場づくりが進んでいます。

(参考:INTERNET Watch「エン・ジャパンがオフィスを半分解約、「バーチャル本社」が生まれた理由 – 」

まとめ

多くの人の注目を集めるメディア業界は、制作コンテンツの魅力だけが議論の的となっている一方、配信プラットフォームや、メディア企業のバックオフィスにおけるソリューションの不足はあまり語られることはありませんでした。

ユーザーの減少や広告主の減少を回避するためにも、メディア業界のDXは欠かせません。現状ではDXを推進できる人材や部署が不足していますが、積極的な解決に向けた取り組みを続けることで、十分に状況を改善することは可能です。

DXの推進は大手企業に集中していますが、適切なソリューションを迅速に遂行することで、中小企業でも十分に実現が可能です。自社にあったDXのアプローチを検討し、実行へ移していくことが大切です。