コールセンターの運用で注目される「KCS(ナレッジセンターサービス)」とは?3つのメリットと8つのステップを紹介

コールセンターの運用で注目される、ナレッジ活用プロセス「KCS(ナレッジセンターサービス)」。DellやHP Enterpriseなど名の知れたグローバル企業ほど、KCS導入に積極的です。

本記事では、KCSの3つのメリットと8ステップの導入手順を解説し、成功事例を紹介します。これからKCSについて知りたい人は、ぜひ参考にしてください。

コールセンターの運用で注目されている「KCS(ナレッジセンターサービス)」とは?

コールセンターの運用で注目されている「KCS(ナレッジセンターサービス)」とは、アメリカのNPO「Consortium for Service Innovation」が、10年の実証実験を通して作り上げた、ナレッジ活用の実践プロセスです。

従来のナレッジマネジメントとの大きな違いは、インシデントをそのままコンテンツ(ナレッジ)化する点です。

KCSでの問い合わせ対応は、ナレッジベースの検索から始まります。検索がヒットすればナレッジに沿ってそのまま対応し、ヒットしなければ対応完了後、対応の過程をナレッジとしてコンテンツ化します。

グローバル企業で積極的に活用されているプロセスで、次のような企業でも、KCSが活用されています。

  • Apollo Group
  • Autodesk
  • Avaya
  • Dell
  • EMC
  • Ericsson
  • HP Enterprise
  • Omgeo/DTCC
  • Oracle
  • PTC
  • Salesforce.com and SDL 

(参考:Knowledge-centered support

(参考:Knowledge-Centered Service (KCS®)

(参考:KCSで重要なナレッジ活用の考え方とは【HDI-Japan代表が語る】

(参考:シリーズ:KCS① ナレッジを中心とした「KCS」でコールセンターは変わる

コールセンターでKCS(ナレッジセンターサービス)を導入する3つのメリット

では、KCSを導入することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。KCSを導入する3つのメリットを確認しながら、KCSが業務効率化や顧客満足度向上に役立つ理由について解説していきます。

1.インシデントをコンテンツ化し、社内にナレッジを蓄積できる

KCSを導入する1つ目のメリットは、社内にナレッジを蓄積できることです。

従来のナレッジマネジメントでは、何度も問い合わせのあったインシデントのみが、ナレッジとしてコンテンツ化されることが一般的でした。問い合わせ数の少ないものはコンテンツ化されず、社内に蓄積されるナレッジも、そう多くはなかったことでしょう。

KCSであれば、ナレッジデータベースを検索して答えの見つからない問い合わせ、つまり、「初めて発生したインシデント」は全てコンテンツ化されます。社内に蓄積されるナレッジ量は、従来のナレッジマネジメントの比ではありません。

(参考:コールセンターやヘルプデスクなどで効率的にナレッジセンターサービス『KCS』を実現するには!?

2.対応者によるナレッジの差を軽減し、質の高い情報を提供できる

KCSを導入する2つ目のメリットは、対応者の経験やナレッジの差を軽減できることです。

KCSでは、1度あった問い合わせは、ナレッジとして全てコンテンツ化されます。つまり、2度目以降の問い合わせには、全てナレッジベースで対応できるようになります。

ナレッジベースの対応が基本となることで、スタッフによる対応の差が軽減され、全ての顧客に質の高い情報を提供できます。

(参考:シリーズ:KCS① ナレッジを中心とした「KCS」でコールセンターは変わる

3.一次対応での解決が増え、エスカレーションが減ることによる業務効率化

KCSを導入する3つ目のメリットは、エスカレーションが減ることです。

ナレッジが共有されていることで、一次対応で完結する確率が高まります。エスカレーションが減り、業務が効率化することも、大きなメリットだといえるでしょう。

(参考:シリーズ:KCS① ナレッジを中心とした「KCS」でコールセンターは変わる

KCSにおける、ダブルループプロセスとは?

KCSを導入することで、コールセンターの運用が大きく改善することがわかりました。しかし、正しいプロセスでKCSを進めなければ、期待する効果を得ることができません。

KCSは、次の8つのステップで構成される「ダブルループプロセス」に沿って進めていきます。ダブルループプロセスとは、KCSにおける「解決ループ」「発展ループ」の大きく2つに分かれる流れのことです。

【解決ループ(SOLVE)】

  1. 問題を捉える
  2. ナレッジを構造化する
  3. ナレッジを再利用する
  4. 再利用を通して改善する

【発展ループ(EVOLVE)】

  1. コンテンツ保全を図る
  2. 利用拡大を図る
  3. 評価制度を確立する
  4. コミュニケーションを通して定着させる

解決ループは個人レベル。発展ループは組織レベルで進めていきます。スタッフは日々の業務を通してナレッジを改善し、組織は個人レベルでの改善をサポートするための仕組みづくりを行うと考えると、わかりやすいでしょう。

(参考:シリーズ:KCS② ナレッジをコンテンツに発展させる「KCS」

(参考:KCSで重要なナレッジ活用の考え方とは【HDI-Japan代表が語る】

KCSの解決ループ(SOLVE)の4つのステップ

個人レベルでの4ステップ・解決ループ(SOLVE)について、具体的な進め方について解説します。

STEP1.Capture

KCSの解決ループ、1段階目は「Capture」です。「捉える」を意味するCaptureでは、問い合わせ内容から、顧客目線で問題を捉えましょう。顧客の話をよく聞きながら、「どんな視点で問題を捉えているのか」「問題をどう表現しているのか」に注目します。

担当者がゼロからナレッジを作るのではなく、実際の問い合わせ対応をコンテンツへと昇華させることがポイントです。

STEP2.Structure

KCSの解決ループ、2段階目は「Structure」です。「構造」を意味するStructureでは、Captureで捉えた顧客の問題(インシデント)を、ナレッジとして構造化します。Structureでは、インシデントを次の3要素に分けましょう。

問題:顧客が解決したい事象

環境:問題が発生した環境

解決策:顧客の環境下で問題を解決する方法

ポイントは、Capture同様に、顧客目線で情報をまとめること。「問題」は顧客がしたかったことを、「環境」はヒアリングした顧客個人の環境を、「解決策」はこの顧客の問題をどう解決するかをそれぞれ記します。

STEP3.Reuse

KCSの解決ループ、3段階目は「Reuse」です。「再利用」を意味するReuseでは、Structureで構造化したナレッジを利用するために、ナレッジベースを検索します。

ナレッジベースを検索し、解決策が見つからない場合は、問題や環境だけでも記録しておきましょう。検索を繰り返す中で、解決策を見つけた人が、追記すればいいのです。

検索によりナレッジを繰り返し使うことで、問題と解決策が、徐々に蓄積されていきます。

STEP4.Improve

KCSの解決ループ、4段階目は「Improve」です。「改善」を意味するImproveでは、再利用を繰り返しながら、ナレッジをブラッシュアップしていきます。

ブラッシュアップの具体的な方法は2つ。「見つけやすくする」ことと、「不確か・曖昧な部分を修正する」ことです。

検索したときに、必要なナレッジがすぐに見つかれば、対応時間を短縮できます。ナレッジの内容に不確か・曖昧な部分があれば、自分で修正できなくとも、フラグを立ててわかるようにしましょう。

なお、ナレッジベースの中で利用されるものは、全体の20%ほどといわれています。利用頻度の高いものは、利用される20%のうち20%(全体の4%)程度です。「3回利用されたら見直しをする」のようなルールを定めておき、効率的に改善を図りましょう。

参考:シリーズ:KCS③ KCSの「SOLVE」ループでは何をするか

KCSの発展ループ(EVOLVE)の4つのステップ

個人レベルでの4ステップ・解決ループ(SOLVE)を進めるためには、組織全体での取り組みが不可欠です。

次に、組織レベルでの4ステップ・発展ループ(EVOLVE)について、各ステップですべきことを解説します。

STEP1.Content Health

KCSの発展ループ、1段階目の「Content Health」では、コンテンツ(ナレッジ)保全を行います。ナレッジベースの整備や改善がしにくい状態では、KCSは定着しません。

Content Healthでは、ツールの導入や、ナレッジ作成プロセスの明確化をしましょう。例えば、問い合わせログをStructureに自動変換できるツールを導入したり、ナレッジの雛形を数パターン用意したりするプロセスを指します。

ナレッジベース用のデータサーバーや、拠点間共有のためのシステム導入も、Content Healthに含まれます。いわば、ナレッジベースのためのインフラ整備です。

STEP2.Process Integration

KCSの発展ループ、2段階目の「Process Integration」では、ナレッジの利用拡大を図ります。利用拡大を図るには、誰にとっても使いやすいナレッジベースを作らなければなりません。具体的には、次の4要素を明確にします。

  • どんなナレッジが必要か
  • ナレッジの書き方や品質基準
  • 誰が使うナレッジなのか
  • どんな表現、単語で書くのか

ナレッジが利用されるようになってきたら、ナレッジの利用範囲を広げていきましょう。例えば、マネージャーを対象としたナレッジが5回以上使われたら、一般スタッフも利用できるようにする。一般スタッフで10回以上利用されたら、FAQとして顧客向けに解放する、というイメージです。

まずは小さな範囲で使い始め、利用頻度を見ながら範囲を広げていきましょう。

STEP3.Performance Assessment

KCSの発展ループ、3段階目の「Performance Assessment」では、ナレッジに関わる実績の評価を行います。ナレッジの作成や改善に貢献したスタッフを評価するために、明確な評価基準を作りましょう。

評価制度の確立は、スタッフのモチベーションを高め、ナレッジベースの品質向上にも役立ちます。

まずは、KCSのプロセスを理解し実践できているかを評価する「習熟度モデル」を作り、習熟度に応じた役職を用意します。次の役職例を参考に、評価制度を確立してみましょう。

KCS候補者:解決ループ「Structure」の「問題」や「環境」の記述ができる。修正が必要と思われるナレッジにフラグを立てられる。

KCS寄稿者:上位者の指導の下、ナレッジの作成や修正ができる。

KCS公開者:コールセンター外へのナレッジ公開権限を持つ。他拠点や顧客向けFAQにナレッジを公開したり、公開するために修正したりできる。

KCSコーチ:評価制度や習熟度モデルに基づき、下位役職の指導ができる。

(参考:KCSで重要なナレッジ活用の考え方とは【HDI-Japan代表が語る】

STEP4.Leadership&Communication

KCSの発展ループ、4段階目の「Leadership&Communication」では、KCSをチームに定着させるためにコミュニケーションを取っていきます。

マネージャーは、KCSの定着がチームにもたらすメリットや、KCSと組織のビジョン実現がどう関わっているのかを理解しなければなりません。チームメンバーに対してリーダーシップを発揮し、KCSについての理解を促し、具体的に何をすべきかを提示していきます。

コミュニケーションを取りながら、KCS定着に向けて、チームを引っ張っていきます。

(参考:シリーズ:KCS④ KCSの「EVOLVE」ループでは何をするか

KCSを導入して成功した事例

では、KCS導入を成功させるには、具体的にどうすればいいのでしょうか。また、KCS導入でどのような課題を解決できるのでしょうか。KCSを導入して成功した事例を見てゆきましょう。

 

事例1.1人あたりの処理能力が25%改善&ROIが15倍(HP社)

アメリカのヒューレット・パッカード(HP社)では、KCSの導入により、スタッフ1人あたりの処理能力が25%改善。投資に対する利益率(ROI)は15倍に増加しました。

HP社が行った取り組みと、具体的な成果について以下見てみましょう。

【事業内容】

自社で扱うPCやプリンターに関するカスタマーサポート

【課題】

  • 顧客の知識レベル向上に伴い、スタッフに求められることも増えた
  • 製品数、製品機能の変化が多く、知識のブラッシュアップが追いつかない
  • 世界各国から問い合わせが入るため、統率を取るのが難しい

【取り組み】

  • KCS認定制度を設け、制度に沿ってトレーニングを実施
  • ナレッジをWebに掲載し、運用しながらブラッシュアップ
  • ナレッジの評価制度を導入し、優れたナレッジの作成者を評価
  • 各国のコールセンター同士でKCSの組織を作り、品質向上に取り組む

【得られた成果】

1人あたりのコール処理能力が25%改善。一次解決率は増加し、エスカレーション率は減少した。1人あたりの生産性向上により、人件費の削減にも成功。結果として、ROI(投資利益率)は15倍に増加した。

(参考:シリーズ:KCS⑤ KCSを活用したコールセンターの事例とは

 

事例2.平均解決時間69%減、解決率20%向上(パーソルワークスデザイン)

パーソルワークスデザイン社では、KCSの導入により、業務の効率化と対応品質の均一化に成功しました。

具体的には、さまざまなツールを導入・連携させることで、「AIを活用したKCSメソッドの運用」を行っています。パーソルワークスデザインが行った取り組みと、具体的な成果について、以下見てみましょう。

【事業内容】

コールセンター運用を含む、各種アウトソーシング

【課題】

  • スタッフ間のスキル差が激しく、問い合わせへの対応品質が属人化
  • 一定の対応品質を満たすために、長時間の研修が必要
  • ナレッジの検索にもスキルが必要で、欲しいナレッジが見つからない

【取り組み】

  • 電話対応の会話を自動でテキスト化するツールを導入、ナレッジを蓄積
  • テキスト化した会話を基に、AIがナレッジベースを検索するツールを導入
  • FAQを蓄積しているコンタクトセンターで、AIを活用したナレッジ運用を推進

【得られた成果】

  • 平均解決時間が69%減少
  • 初回対応での解決率が20%向上

なお、パーソルワークスデザインは、2018年10月に国内初の認定(KCSアワード)を取得しています。

(参考:【プレスリリース】KCSメソッドとAIを十分に活用したナレッジ管理の新サービスを提供開始

まとめ

本記事では、コールセンターの業務を効率化し、顧客満足度の向上にも繋がる「KCS」を紹介しました。

KCSを活用することで、スタッフ間での対応品質を均一にし、エスカレーション率も減少します。問い合わせへの対応内容を、そのままコンテンツ化するため、社内に蓄積されるナレッジ量も加速度的に増えていきます。

KCSの導入は、次の8ステップに沿って進めましょう。個人・組織レベルでの取り組みを、相互に作用させる意識を持って、各ステップに取り組んでください。

【解決ループ(個人)】

  1. 問題を捉える
  2. ナレッジを構造化する
  3. ナレッジを再利用する
  4. 再利用を通して改善する

【発展ループ(組織)】

  1. コンテンツ保全を図る
  2. 利用拡大を図る
  3. 評価制度を確立する
  4. コミュニケーションを通して定着させる

グローバル企業・大手企業ほど、KCSの導入に積極的です。まずは成功事例を参考に、「自社でKCSを導入するにはどうすればいいか」「KCSを導入してどんな課題を解決したいか」を、考えてみていただければと思います。