人材業界DX化の最新動向【国内&海外】

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染症拡大の影響を受けて、 2020年9月の有効求人倍率は1.03倍と9ヵ月連続で低下した(昨年同月の有効求人倍率は1.57倍だったのに比べ大幅に下落した)。ハローワークの求人数は去年の同月比よりも70万件近く減少しています。厚生労働省は「一部で持ち直しの動きはあるものの、今後の見通しは不透明」と発表しました。

この傾向は、人材紹介会社も同様で、大手人材紹介会社のエン・ジャパン2020年3月期の決算説明資料でも、前年比で売上高27.3%減と売上が落ち込んでいます。

オフィスワーク事務職などの有効求人倍率は0.4倍前後と低水準です。一方で、各企業は、競争力維持・強化を理由にDX推進がされてきています。DX人材は、経済産業省の『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』でも指摘されているように大幅に不足しているため、6.0倍前後と高い水準を記録しています。一方で大手企業を中心に競争力強化のために、DXが積極的に推進されています。本記事では、DXでビジネス変革が加速する人材業界の動向について解説します。

(参考:BUSINESSINSIDER「エン・ジャパン社長が語る「DX事業に100億円」の真意…中小企業の生産性向上なければ未来はない」)

(参考:NHK「【データで読む】有効求人倍率1.03倍 その歴史を振り返ると…」)

人材業界のDX化

 大手企業を中心にDX化に向けて、(1)テック企業との共創・競争、 (2)デジタル・ケイパビリティの獲得、 (3)DX人材の育成などの取り組みがされています。

(1)テック企業との共創・競争

パーソルホールディングスでは、中長期経営戦略の一つに「テクノロジーを武器にする」を掲げています。そのため、AIベンチャー企業のエクサウィーズとの協働を2020年8月に発表、10月には介護業界のDXを支援する株式会社みーつけあへの出資を発表しました。

パーソルホールディングスのDX人材が登録するプラットフォーム「TECH PLAY」では、1,000回を超えるDX勉強会が開催されており、業界別のDX推進に長けた人材を確保。また、AIプロダクトの開発と実用化に取り組むための戦略コンサルトやAIエンジニアなど分野横断的な人材も確保しています。さまざまなDX人材を確保することで、企業の経営戦略からDX戦略、組織戦略までワンストップサービスを提供することを強みに事業展開していきます。

また、大手人材メディア会社のエン・ジャパンは、中小企業向けのDX推進支援に着手することを発表し、営業支援や業務効率化に照準を当てています。中小企業のDX推進支援を行い、中小企業を活性化した上で、同社の人材サービスを利用してもらうという「循環システム」を確立しようとしています。

具体的には、DX支援ツールを開発しているベンチャー企業に投資をして、自社の営業網を通じて支援、テック企業と共創することでの実現を図ろうとしています。

また、2020年7月には、クラウド会計ソフトで有名なマネーフォワードがDXに特化した人材紹介事業に参入すると発表。また、DXに強い副業マッチングプラットフォームなども多数登場してきており、人材業界では、大手企業も新興テック企業とDX人材を巡り競争する時代が到来してきています。

 (参考:パーソナルホールディングス「パーソルとAIベンチャーのエクサウィザーズが協働し、企業のDXを推進」)

(参考:BUSINESSINSIDER「エン・ジャパン社長が語る「DX事業に100億円」の真意…中小企業の生産性向上なければ未来はない」)

(参考:日本経済新聞「マネーフォワード、人材紹介業に参入 DXに特化」)

(2)デジタル・ケイパビリティの獲得

人材会社は、デジタルに精通したリソースの幅を拡大しなければいけません。従来のように、デジタルケイパビリティをIT部門に集中させるのではなく、組織全体に広く浸透させることが不可欠となってきています。どの事業部門においても、部門に関連するITスキルを習得していく必要が出てきているのです。

例えば、前掲エン・ジャパン社では、ベンチャー企業へ投資をする際の目利きとして野村総合研究所、アビームコンサルティング、富士通などDXやデジタルビジネスに精通している人材の獲得を行っています。

(参考:PwC「デジタル投資の成果を高める5つの行動」)

(参考:BUSINESSINSIDER「エン・ジャパン社長が語る「DX事業に100億円」の真意…中小企業の生産性向上なければ未来はない」)

(3)DX人材の育成

新型コロナウイルスの感染拡大により企業のリモート化が加速して、DX化を目指す企業が増えてきました。2020年4月より、リクルートキャリアに寄せられたDX関連の新規求人は、前年比の約4倍に増加しました。

前年と比較すると、商売業・不動産業・金融業・製造業など、さまざまな業界の企業からDX人材を求める声が上がっています。人材会社は、このような企業の声に応えるべく、DX人材の育成・確保が求められているのです。

このように企業から求められるDX人材の職種は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)によれば以下の6つに定義されています。

プロデューサー DXやデジタルビジネスの実現を主導する人材
ビジネスデザイナー DXやデジタルビジネスの企画・立案・推進等を担う人材
アーキテクト DXやデジタルビジネスに関するシステムを設計できる人材
データサイエンティスト/AIエンジニア DXに関するデジタル技術やデータ解析に精通した人材
UXデザイナー DXやデジタルビジネスに関するシステムのユーザー向けデザインを担当する人材
エンジニア/プログラマ 上記以外にデジタルシステムの実装やインフラ構築等を担う人材

パーソルホールディングスでは、DXを推進するCDO(Chief Digital Officer)を中心として、新規事業の創出を通じてDXを担うイノベーション人材の育成を行っています。

(参考:日経XTECH「コロナ禍でも求人数4倍の人気、「DX人材」の採用に苦労する企業の特徴」)

(参考:人材業界のディスラプトをリードするパーソルのDX戦略)

海外人材会社のDX動向

 日本の人材会社のDX動向をご紹介しましたが、先進国の人材紹介会社のDX化の取り組みはどのようなものがあるのでしょうか?ここでは、海外人材紹介会社のDX動向についてご紹介します。

RedHat:DX人材育成プログラムの開発

クラウド技術を保有する米国のRedHat社は、野村総合研究所と共同で、2020年6月にDX人材に求められるスキルを学べるプログラムの提供を開始しました。RedHatが提供していた教育コースに、新たに共同開発した人材育成プログラムが組み込まれ、DX推進に必要不可欠なアジャイル開発やユーザーエクスペリエンスに関するノウハウ・研修も揃えました。

また、DX人材育成プログラムだけではなく、経営層に向けたアジャイルトレーニングも揃っていることから大きな話題を集めています。

 (参考:NRI「野村総合研究所、レッドハットと共同で開発したDX人材育成プログラムの提供を開始」)

Findem:人事データのマイニングを実施

米国の大手人材会社のFindem社は、2020年10月に資金調達に成功。経営者層や人事担当者の採用の意思決定を行いやすくするための人事データマイニングを開発することを発表しました。

これまでも、キーワード検索によるマイニングが行えていましたが、有形データ(キャリアなど)と無形データ(性格など)を基にした検索が行えるようになります。また、社内の採用傾向を分析したり、競合他社と採用傾向を比較したりできるなど、高度な人事データマイニングを提供する方針が2020年10月に発表されました。

(参考:FinSMEs「Findem Raises $7.3M in Series A Funding」)

 Bumble:新たなプラットフォームの創出

Bumble社は、米国の大手デーティングアプリ「Tinder」から独立した女性起業家が立ち上げたアプリ会社です。日本国内でも婚活アプリなどのマッチングアプリが普及していますが、Bumbleは婚活アプリ(Bumble Date)だけではなく、友人探し(Bumble BFF)も職探し(Bumble Bizz)もBumbleのアプリ内で行うことができます。さまざまな用途に、このアプリ1つだけで対応できるのは魅力的です。

日本の求人媒体は、仕事探しの際だけに利用されることが多いですが、このようなプラットフォームを構築することで、身近なサービスとなりユーザーの囲い込みが行えるかもしれません。Bubmleはヨーロッパのアプリ会社ですが、新たなプラットフォームの創出方法として、今後の動きに着目しておきましょう。

(参考:bumble公式ホームページ)

まとめ

 今回は、人材業界のDX動向について紹介しました。各業界でDX化に向けた取り組みが実施されていますが、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染症拡大の影響を受けて、 2020年9月の有効求人倍率は1.03倍と9ヵ月連続で低下し、人材業界サービスも大打撃を受けています。

そのような市場でも、DX人材を採用したい、DX化に取り組みたいDXに関する需要は増えているため、(1)IT企業との共創(2)デジタル・ケイパビリティの獲得(3)DX人材育成に取り組むことで、ビジネスチャンスが広がります。

国内の大手人材会社や、海外人材会社では、従来とは異なるサービスの提供のための取り組みが始められています。どのような取り組みがされているかを本記事で確認することで、DX化を推進する際の参考にしてください。

・おまけ
営業力のDX化といえば、インサイドセールスですが、その導入及び効果的な運用については、E-Bookに記載しましたので、ダウンロードしてお役立てください。