そもそもインサイドセールスって何?~ITmediaマーケティング_リレーコラム Vol.1 ~


ブリッジインターナショナル株式会社
セールス&コンサルティング本部
上席執行役員 本部長 秋谷 亮


電話を使った営業スタイル

ここ数年、“インサイドセールス”という単語はメディアやSNS上で目立つようになっています。
Vol.0でも触れられているように、営業される側と営業する側の双方において、

「消費スタイルの変化」と「働き方改革」などの観点から営業の生産性向上が求められ、
1つの解決手段として”インサイドセールス”に注目が集まっているものと考えられます。

ただ、インサイドセールスといっても様々な形があり、
テレマーケティングやテレアポと何が違うのかということを質問されることは少なくありません。

欧米では1960年代にテレマーケティングをスタートしていました。
ここでいうテレマーケティングとは、用意されたターゲットリストに対して、
トークスクリプトに従い簡単な質問を投げかける類のものです。

欧米におけるテレマーケティングは国土の広さをカバーするために必然の手段だったため、
お客様も訪問をしてこない営業活動ということに対してネガティブな反応ではなく、
合理的だと受け入れているケースが多かったという背景があります。

そうした中、1990年代からIT企業を中心としてインサイドセールスという形に進化していきました。

日本では、1980年代くらいからBtoC領域において電話営業やテレマーケティングが頻繁に行われはじめ、その手法がBtoB領域でも活用され、アポイントを取得するテレアポという手法に変化していきました。

日本の国土はアメリカに比べて小さく、営業は訪問してくることが当たり前だという風土は長らく続いていますが、ITツールの進化により、訪問に近いコミュニケーションができるようになってきていることから、少しずつではありますが、訪問ではない営業へのネガティブな反応は減少傾向にあると感じています。

欧米と日本のインサイドセールス事情

日本よりもインサイドセールスの活用が進んでいる欧米のインサイドセールス事情に少し触れておきましょう。

図1は、アメリカとEUにおける、インサイドセールス(主に遠隔で営業をする担当者)とアウトサイドセールス(主に対面で営業をする担当者)の比率を示したものです。

驚くことにアメリカでは営業職に従事する570万人のおよそ半数が、主に遠隔での営業に従事しています。

図1.営業に従事する人のうち、主に対面販売をするインサイドセールスとアウトサイドセールスの割合
出所;Inside Sales.com プレスリリース「THE STATE OF SALES」
https://uk.insidesales.com/wp-content/uploads//2017/09/State-of-Sales-9_15_17-Exec-Summary.pdf

残念ながら日本ではまだこうした統計データが存在しないため、日本との比較は困難です。

2019年の春にセールスフォース・ドットコム社が全535の国内企業の経営企画部門、営業・販売部門、マーケティング部門のマネージャークラス以上を対象にアンケートした結果によると、

約70%の人が「インサイドセールスという言葉を聞いたことがない」という認知率の低さで、導入率はさらに低く、ほとんどの企業規模でも10%を切る割合とのことで、欧米の活用に比べるとまだまだ少ない状況です。

インサイドセールスの導入効果

日本においてインサイドセールスは、まだアーリーアダプターのみが取り組んでいるものという状況ではありますが、長年インサイドセールスに携わってきた私からすれば、認知・導入のスピードの高まりを日々感じています。

インサイドセールスの認知・導入が高まっている理由は、実際に効果が得られた事例が増えているからだと言えます。では、インサイドセールスの導入の効果とは何でしょうか。

ここでは、インサイドセールスだけで完結するのではなく、インサイドセールスが案件を発掘・醸成して、訪問営業が完結するプロセス分業モデルを例として、導入の効果について説明をします。

インサイドセールス導入前は、訪問営業が見込客発掘からクロージングまですべてのプロセスを行なっていたのに対して、プロセス分業モデルでは前半の見込客発掘/醸成をインサイドセールスが担うモデルです。

一般的に訪問営業は目先の数字に追われて、前半のプロセスが手薄になることが多いと言えます。

しかし、このモデルでは、訪問営業は1つ1つのお客様により時間をかける後半のプロセスに集中し、前半は機動力をいかしたインサイドセールスが担当することで、各プロセスの生産性の向上が期待され、全体としての売上や粗利の向上が見込めます。

またインサイドセールスを導入する際にはSFA/CRMなどの顧客情報の管理が重要な点になってきますが、インサイドセールスはこうしたSFA/CRMツールへの情報の入力が徹底されており、
担当が変わるとお客様のことがわからないといったことが防げるというような副次的な効果も得られます。

インサイドセールスの始め方と仕組みづくり、マネジメントのコツ

さて、インサイドセールスについて少しご説明させていただきましたが、最後に実際に始めるにはどうすればよいのかという点をご説明させていただきます。

インサイドセールスのモデルは以下の4つの観点から検討する必要があります。

1 目的:インサイドセールスに何をさせたいのか
新規顧客開拓なのか、既存顧客への契約維持なのか、既存顧客へのクロスセルなのか etc.

2 商材:インサイドセールスの営業対象となる商材は何か
高額/低額単価、スポット契約/サブスクリプション、コモディティ/ソリューション etc.

3 お客様の属性:インサイドセールスの対象企業の属性やキーパーソンの属性
大企業/中小なのか、対象企業は多い/少ない、CXO/課長レベル etc.

4 自社の営業体制:営業リソースの状況
直販/間販、全国カバー/地域限定、訪問営業人数 etc.

これらの観点で、インサイドセールスの活用を間違えてしまうと、成果は見込めません。
極端な例ですが、ターゲット企業が日本に10社しかなく、1取引が数十億円の新規顧客開拓を行うのに、インサイドセールスでクロージングを目指す。

といった活用は難しいでしょう。

ただし、クロージングではなく、キーパーソンの発掘やキーパーソンからの情報/課題聴取といってプロセスはインサイドセールスでも可能ではあります。

上記は極端な例ではありますが、より具体的なインサイドセールスの導入目的と適用スコープなどを図3に示しています。

これらの検討事項について、関係部門(営業やマーケティング)の間で認識を合わせていくことが重要なポイントとなります。

図3 インサイドセールス導入前の検討事項

最後に、インサイドセールスのマネジメントのコツを少しお話したいと思います。

基本的には営業活動のマネジメントになりますので、サイクリックにPDCA運用を行っていくことですが、訪問営業と大きく違うのは、短期間でデータがたまることと、インサイドセールスとお客様のコミュニケーションを把握することが容易である点です。

1点目の短期間でデータがたまるという点ですが、例えばある施策を展開するときに、訪問営業とインサイドセールスでお客様にあるキャンペーンのオファリングを行うとしましょう。

そうしたケースで、訪問営業とインサイドセールスのどちらがより件数と反応を整理することができるか想像してみてください。

訪問のスタイルにもよるかと思いますが、一般的には営業よりも移動時間のかからないインサイドセールスの方が、多くのお客様へコンタクトが可能です。

かつ、それらの活動結果を即座にSFA/CRMに入力することが習慣化されています。

また、午前中にインサイドセールスがまとまった数を実施した上で、お客様の反応が良くない場合に、午後にはオファリングの表現を変更して実施するといいったクイックなPDCAサイクルを実施できるという特徴もあります。

さらに、訪問営業のケースにおいては、上司が同行していればお客様との面会後に「あの場面ではこう言った方がよかった」などの指摘をすることもできますが、一人でお客様先へ訪問している場合はオファリングを正しく伝えらえているかどうかはまったくわからないため、属人化が進んでしまいます。

一方インサイドセールスでは、録音したお客様との会話を聞き直したり、リアルタイムに指導したりすることで、改善がされて属人化を防ぐことができるようになります。

なお、この点についてさらに進化していまして、
詳しくはVol.2のRevComm社から展開していただきます。

まとめ

最後にこのコラム「そもそもインサイドセールスって何?」をまとめさせていただきますと、

✓ 欧米に比べると、日本ではまだまだインサイドセールスの導入は少なく、これから普及するもの
✓ インサイドセールスの導入によって営業生産性の効率化が見込める
✓ ただし、目的/適用範囲(商材、プロセス)などをしっかり検討することが必要
✓ インサイドセールス特有のお客様とのコミュニケーション内容の把握からのPDCAが重要

となります。