コールセンターのリモートシフトがもたらす効用とは?(海外事例を中心に紹介)

はじめに

今回の新型コロナウィルス(COVID-19)のパンデミックをきっかけに、世界の様々な産業・企業で在宅勤務へのシフトが起こっています。一度、在宅勤務体制を整えた企業は、パンデミック収束後もその体制を継続する見込みのようです。

 

この流れはコールセンター業界でも広がる可能性があります。クラウドシステムなどを導入し、オペレーターが自宅からセキュアに通話できるリモートワーク環境を構築する企業が増えているのです。

 

その背景には、感染防止などの衛生面での利点だけでなく、生産性向上でのメリットや人材市場におけるリモートワーク需要の高まりなどがあるようです。

 

本記事では、世界のコールセンター最新情報から、リモートシフトの動向をお伝えします。

 

パンデミック収束後もリモートワーク継続、企業・従業員ともに希望

 

コールセンター業界のリモートシフトを見る前に、あらゆる業界で起こっているリモートシフトを俯瞰してみます。

 

米ITコンサルティング企業ガートナーが2020年4月3日に発表した調査レポートでは、企業の最高財務責任者(CFO)が、経営の観点からリモートシフトをどのように考えているのかを明らかにしています。

 

同調査によると、オフィス勤務社員の少なくとも5%を永続的にリモートワークにすると考えているCFOの割合は74%に上ったのです。

 

社員1万人の企業であれば、少なくとも500人が永続的にリモートワークのポジションに就くことになります。

 

また、社員の20%をリモートシフトすると検討してる割合は23%でした。景気先行きの不透明感が増し、コスト削減圧力が高まる中、CFOらはリモートワークのほうが合理的であると判断しているようです。

 

この傾向は、前掲ガートナーの調査でも示されています。調査によると、今回のパンデミックを受け、オフィス賃料を含め不動産関連のコスト削減に乗り出したCFOの割合は13%、またオンプレミスサーバーなどオフィス勤務向けのテクノロジー関連支出を削減したCFOの割合は20%となりました。

 

企業のリモートシフトだけでなく、人材市場におけるリモートワーク需要の高まりも顕著になっています。

 

IBMが2020年4月に実施した調査では、調査対象となった米国在住2万5000人のうち75%がパンデミック収束後も(ときどきの)リモートワークを希望すると回答しています。また、リモートワークを主要な労働形態にしたいとの回答は54%、企業は在宅勤務の選択肢を設けるべきとの回答は40%でした。

 

英コールセンター業界のリモートシフト、クラウド化で生産性大幅アップ

 

労働人口の4%がコールセンターで働いているといわれる英国では、コールセンターの大半がリモートワークにシフトしています。

 

コールセンター・ソリューション企業Genesysがこのほど発表したレポートによると、英国では、コールスタッフの75%以上をリモート化した企業が、82%に上ったのです。また100%完全にリモートワークにシフトしたとの回答は54%となりました。

 

リモートワークに移行する企業の中には、リモート化にともない、新規に大量のスタッフを雇用する企業も出てきています。最近、英国コールセンター業界で話題となったのは、ビジネスプロセス・アウトソーシング企業TTECによる大量雇用のニュースです。同社は、クラウドコールセンターの導入にともない、リモートワークするコールスタッフを3500人雇用する計画を明らかにしたのです。

 

英コールセンター業界メディアCallCenterHelperによれば、TTECによるクラウドコールセンターを活用する戦略は、AXA Insuranceの戦略と類似していると指摘しています。その戦略とは、クラウドコールセンターの導入により、生産性やサービス品質の向上を狙っています。同メディアによると、先行してコールセンターをクラウド化したAXA Insuranceでは、コール数(digital interaction)は前月比で50%増、問題解決までの時間は50%削減されたということです。

 

前掲Genesysのレポートでも同様のデータが示されています。同社のコールセンター・クラウドプラットフォームのデータによると、カスタマーサービスへの問い合わせ数は、2019年第4四半期から2020年第1四半期にかけて33%増加しています。問い合わせ数が増加した要因として、パンデミックの影響が挙げられますが、AXAの事例のようにクラウド移行によって問い合わせを処理する時間が大幅に削減されたことで、対応できる問い合わせ数が増えたとも見て取ることができます。

日本においては、チューリッヒ保険会社が、コールセンターのリモート化を実現させ、営業時間を3時間短縮したにもかかわらず、過去最高の契約数を達成したとのことであり、生産性の向上に成功しています。

 

(参考:https://www.callcentrehelper.com/successful-remote-contact-centre-158038.htm|CallCenterHelpe,https://president.jp/articles/-/36222|プレジデントオンライン)

コールセンターのリモート化の効用、スタンフォード大学の研究

 

多くのコールセンターは、パンデミックをきっかけにリモート化を急いでいるようですが、一部の会社ではすでに数年前からその効用に目をつけ、リモートワークの体制を構築しています。

 

リモート化を実施する根拠の1つとして挙げられているのが、スタンフォード大学が2013年3月に発表した論文です。

 

当時ナスダックに上場していた中国の旅行代理店Ctripのコールセンターで、9カ月間に渡り実施された同実験では、在宅勤務したグループは生産性だけでなく、満足度も高まるという結果を示したのです。在宅勤務したグループは、オフィスにいるグループよりも、同じ時間の中で約13%多く電話をかけたことがわかりました。

 

また、オフィススペースの節約効果もあり、実験の最終段階ではスタッフ1人あたり約2000ドルの節約につながったと報告しています。

 

リモート化で課題が浮上するケースも報告されていますが、同時にベストプラクティスの共有や議論も進んでおり、リモート化を促進する環境は一層強くなっている印象です。ニューノーマルとしてのリモートワークはコールセンター業界ではどのように普及していくのか、引き続き注目していきたいところです。

 

(参考:https://www.gsb.stanford.edu/faculty-research/working-papers/does-working-home-work-evidence-chinese-experiment,

 

https://hbr.org/2014/01/to-raise-productivity-let-more-employees-work-from-home